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「最長片道切符の旅」取材ノート
宮脇 俊三
新潮社

関口知宏が主演したNHKBSの旅番組「列島縦断鉄道12,000㎞ 最長片道切符の旅」が、現在の空前絶後の鉄道ブームの契機のひとつであったことは確かだろう。
この「同一の鉄道会社(JRグループ)のみを使い」「同じ駅を2度通らず」「最も長い距離を移動する」最長片道切符の旅に大いなる先達がいることは、鉄道のオールドファン(古鉄)なら常識だろう。
関口に先立つこと25年、鉄道作家の宮脇俊三は1978年に国鉄最長片道切符の旅に挑み、その行程を翌年『最長片道切符の旅』(以下『旅』)として上梓した。
むろん最長片道切符の旅を成し遂げたのは宮脇が最初というわけではない。しかし最長片道切符の旅は、宮脇の著書によって初めて、単なるマニアの「奇行」ではなく、偉大な挑戦である「紀行」だと認められるようになったのである。
本書『「最長片道切符の旅」取材ノート』(以下『ノート』)は、その宮脇が最長片道切符の旅に携帯し、すべてをメモした取材ノートの克明な翻刻である。

宮脇は生前に娘に、メモを「とらなければ覚えていられないようなことは、書くに値しないこと」で、メモすべきことは、例えば駅弁の中身や列車の号数など、「憶えきれない事や、主観で書くことが許されない事実」だと言ったという。
しかし宮脇ははじめからこの境地にいたのではなく、『ノート』の膨大なメモを採る体験を経て、この結論に至ったのだろう。

『ノート』の記述はいわば、『旅』の簡潔にして味わいある文章の素材となった、生のままの材料である。『旅』と『ノート』を読み比べることで、いくつかのことが見えてくる。当然『時刻表二万キロ』で国鉄完乗を果した、旅の達人としての宮脇の身のこなしは参考になる。しかしそれよりも読んでほしいのは、紀行作家、あるいはレポーターとしての宮脇のテクニックだ。

たとえば宮脇の目の付け所。車内では乗客のことばや車窓からの光景を写し、駅では駅舎や駅員とのやりとり、駅前の建物や人々の暮らしぶりをメモする。
そうして写しとったできごとのうち、書いたことと書かないことがあるとわかる。
充分におもしろいと思うやりとりであっても、最長片道切符の旅という主題にそぐわない事柄は文章には起こさない。正確で緻密な再現は、それはそれですばらしいことかもしれないが、冗長な繰り返しは読みづらさも招いてしまう。何を正確に書き、何を書くのをあきらめるかが、紀行文の臨場感やおもしろさを作り出しているとわかる。

これは紀行文に限ったことではないだろう。
さまざまな場面で要求される報告文やレポート・小論文、また用件を伝える日々の手紙やメールであっても、同じことが言えるはずだ。
『ノート』を読んで『旅』を読む。
それはよりよい旅人になるために有効であるのと同様に、よりよい文章技術の習得ためにも役に立つことだろう。

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