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ツチノコの民俗学 妖怪から未確認動物へ
伊藤 龍平
青弓社

「未確認生物」というジャンルがある、といってもいいらしい。ネス湖のネッシーやヒマラヤの雪男など、「まだ確認されていないが存在するかもしれない、謎めいた生物」を指していう。UMAという和製英語の略称もあるなど、少なくともオカルト本の分野では確固たる読者をつかんでいる分野である。

その中でも日本在来(?)の未確認生物である幻の蛇・ツチノコは、「珍しいもの、いそうにないもの」の代名詞として使われるなどよく知られた存在である。本書は民俗学の視点から、その「未確認生物・ツチノコ」を考察するという前例のない快著、あるいは怪著である。
ツチノコは1970年代に「日本に住む幻の蛇」としてブームになり、各地でツチノコ探検隊が組織され、目撃多発地帯では町おこしのツチノコ共和国が立ち上がった。またツチノコはマンガなどにも描かれて広まり、特に『ドラえもん』に登場したツチノコは、ドラえもん人気にのって広くアジアに流布されている。

著者は、ブームとなる以前のツチノコが「祟り」や「仏罰」の不吉なイメージをまとっていたことや、そもそも蛇ではなく器物の妖怪(その名の通りの「槌の子」)としてとらえられていた地域もあったことなどを指摘。1970代のツチノコ・ブームの時期に、そうしたいくつものツチノコ伝承が「幻の蛇・ツチノコ」という説明で統一され、また「ゴハッスン」「バチヘビ」などの各地の怪蛇伝承も「そういう蛇ならツチノコのことだ」というようにして、取り込まれていったと説く。

「未確認生物」という「科学らしさ」の眼くらましを取り去ってみれば、ツチノコが、マスメディアを背景として成立した現代の民間伝承にほかならないことが見えてくる。

そうして著者はツチノコ研究が「見た目の新奇さとは裏腹に、存外、民俗学の本道を行くものである」と述べる。それは「身の回りにある、誰かが指摘しなければ見過ごしてしまうような些細な伝承を糸口にして日本人のものの考え方を理解しようとする」ことが、民俗学の初志とも言いえるものであるからに他ならない。一見何の接点もなく思えた「UMA」と「民俗学」はここで合流する。

自らの身の回りにあるさまざまなものは、それぞれが由来来歴、つまり歴史性を帯びている。そうした歴史性を考えることこそが、自らを見つめなおすという行為なのだろう。一見珍奇に思える「ツチノコ」から学べることは、意外と大きい。

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