最新情報

No.24「振り返ってみよう より良い未来のために」
2020/7/30

【校長からの発信】
No.24「振り返ってみよう より良い未来のために」


2020年7月30日 校長 浅井 千英

 

人間は生まれると社会生活の最小単位である家族の一員となり親兄弟とともに育っていく。3歳(場合によっては4歳)から幼稚園に通い、集団生活を体験する。保護者の仕事の関係でそれ以前に保育所で集団生活を体験する場合も近年増えている。日本の大多数は高等学校まで学校教育を受け、その後、約半数は大学に進み、最近は大学院の修士課程まで進むものも増加している。その後、職業人として社会の役割を担っていく。大多数の場合、結婚により家族を持つこととなる。

近年、日本では少子化が顕著になって、若手の労働力が不足している。これは日本だけではなく、先進国にある程度共通した傾向であるが、特に日本においてその傾向は顕著である。この背後にはいろいろな要因があって、それらが複雑に絡み合っているように思われる。

一つには人口の首都圏集中でこれは今日まで止まることなく続いている。結果として首都圏の便利さと引き換えに生活費が高騰し、人手不足と相まって共働きの若い世代が増加し、子育てが容易にできないとの事情がある。また子育ても相当な経済的な負担となっている。また、首都圏で自然災害、人災、複数の災害が重なった場合の対応も問題だ。災害対策や救急施設が災害時、本当に有効に利用できるのかも不透明である。 

歴史を振り返ってみると日本は数多くの自然災害を経験してきた一方で、10世紀頃から洗練された文化を育み、竹取物語、古今和歌集、土佐日記、源氏物語、枕草子など現在でも高く評価される文芸を残してきた。世界的古典として評価されているダンテの神曲、ボッカチオのデカメロンに先んじること200〜300年、シェイクスピアに至っては16世紀となる。

天皇を中心とする貴族社会である平安時代から武家が幕府による日本の実質支配する鎌倉時代、室町時代、安土桃山時代、そして江戸時代がペルリ来航により終焉するまで日本独特の文化は育まれ、明治維新以後、そして現代もその底流で変革を支え続けてきた。このことがその後の日本発展に寄与してきたことは間違いない。明治以降、日本はある意味で幸運に恵まれすぎて自らを見失い、軍部の台頭を招き、最後はアメリカ参戦で日本は世界で最初(そして願わくば最後の)被爆国となり、日本の主な都市部は焼け野原となった。その後も連合国側の援助に恵まれ復興に向けて努力を続けているところに、朝鮮半島で戦乱が起きたため、日本の経済が活性化し1970年代まで順調すぎるほど発展してアメリカに次ぐ経済大国になった。

明治維新以降の歴史を振り返ると、日本は勿論固有の文化のおかげもあるが、幸運に恵まれすぎて自分を見失った時期に大きな失敗(軍部の独走)をしたことを忘れてはならない。第一次世界大戦の戦後処理をめぐって行われたベルサイユ条約はドイツにとてつもない賠償を強いることとなり、結果としてドイツではナチス台頭を許し、欧州における第二次世界大戦となった。東洋においては日本は連合国側の一員としてその存在感を高めたが、日本軍部の独走が第二次世界大戦の引金になった。二つの世界大戦を経ても、いまだに燻っている問題がある。例えばアジア・アフリカの問題、民族間・人種間の対立など数多くの問題を抱えている。

我々人類は時として幸運に恵まれ、瞬時の繁栄をすることがあるが、これは要注意であり、かなり手酷いしっぺ返しを受けることは上記の歴史も明らかである。20世紀後半人類は長期の平和により、幸運にも未曾有の発展をしてきたが、今世界はこの幸運に隠された歪が現れている。すなわち、環境破壊、地球温暖化、マイクロプラスティックによる海洋、及び海洋生物の生存危機をはじめとする環境汚染、SDGsにも含まれているはずで、ただ単に問題意識を持つだけでなく、早期の具体的対応が迫られている。手遅れにならないように行動を起こすべきである。また、政治的には、独裁政治、ポピュリズムの台頭など望ましくない兆候が表面化している。

現在の日本及び世界の閉塞感をどのように克服していくかとても重要な分岐点に差し掛かっていて、ここで間違えると大変なことになる。よく足元を見つめてグローバル化する環境に対応して地道な努力を続けることが大切である。

日本の労働力不足の原因は、高度に発達した情報化時代が到来しているにもかかわらず、このメリットを充分に活かすことができず、日本人の働き方改革、価値観の見直し、社会構造の変革等が充分に行われていないこともその原因の一つではないかと思われる。今まではみんなで集まって仕事をしてきたが、インターネットの利用により、場所と時間の制約が軽減できる。ラッシュアワーに登校・通勤することの意味を考え直す段階に来ているのに、なんとなく躊躇して従来のやり方を変えられないでいるこの状況を打破する必要がある。コロナウィルス感染拡大に対する戦いは今までの歪と閉塞感を打破するきっかけになればと期待しています。中世の欧州で繰り返されたペストの感染拡大が宗教改革やルネッサンス(文芸復興)をもたらしたように。

アルベール・カミユの「ペスト」という小説が文庫本で出ています。ペストが徐々に拡大していく様子が描かれています。興味ある生徒は読んでみてください。

Return to Top ▲Return to Top ▲