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No.13 東京オリンピック2020 サッカーの試合から
2021/8/29

【校長からの発信】
No.13 東京オリンピック2020 サッカーの試合から


2021年8月30日 校長 森田 勉

 

 今回は、7月23日から8月8日まで行われていた東京オリンピック2020についてのお話です。みなさんご承知のように、コロナ禍の影響で開催が1年延期され、今年も開催については賛否両論ありました。しかし、実際に開かれてみると、無観客の競技が多かったものの、テレビ観戦を通して、アスリートたちの熱い戦いに胸を打たれたのは私だけではないと思います。

 私は長くサッカーに携わってきたので、サッカー競技、特に男子サッカーの試合を興味深く観ていました。今回の日本チームは、史上最強といった触れ込みで期待も大きく膨らんでいました。予選リーグは全勝で通過し決勝トーナメントに進みました。準々決勝でニュージーランドを破り、いよいよ1968年以来53年ぶりのメダル獲得かと思われました。しかしながら、準決勝ではスペインに、三位決定戦ではメキシコにともに敗れてベストフォーにとどまりました。最後の2試合は、連戦の疲れの影響も多々あったとは思いますが、サッカー文化の差と言いますか、歴史の違いと言いますか、いずれも相手のほうが上回っていたと感じられました。日本の選手たちも能力の高い選手がそろっていましたし、オーバーエイジの選手たちも充実していました。でも、結果的には、目標とするメダル獲得はなりませんでした。

 このことはファンからすればとても残念なことではありました。しかし、選手たちの勝利を目指しての闘いには心から拍手を送りたいと思っています。スポーツには、とりわけ対戦相手と競う種目では非常に残酷な一面があります。それは、結果として勝ちと負けとにはっきりと分かれてしまうからです。“勝てば天国、負ければ地獄”というような表現さえ使われます。確かに「勝敗」だけにこだわれば、そうしたことも言えると思いますが、スポーツの価値はそれだけではありません。結果には見えない、大切な「プロセス」が必ずそこにあるからです。

 みなさんは「やればできる」とか「努力は報われる」とか、そうした言葉をよく耳にすることだと思います。みなさんは、その言葉を信じていますか? 「やってもやっても結果がついてこないから」と思って、これを信じていない人も少なくないかもしれません。実は、「やればできる」という言葉は、正確に言うと(少なくとも私が思うに)「やれば成長できる」ということです。つまり、ひとつの大切な目標に向かって、失敗してもくじけず、粘り強くやり続けていく、その経験は自分の中に財産として蓄積されます。そしてその経験は他のことにも転用・応用が利くのです。たとえ、目先の結果が出なかったとしても、その経験は「生涯の宝」となって生きていく糧につながるものです。その意味において、やはり「努力は報われる」のです。これを一言で言うと、目標に向かっていく「プロセス」が非常に大事であるということです。

 日本サッカーの歴史に目を転じてみます。先述した1968年のメキシコオリンピックで銅メダルを獲得して世界を驚かせはしましたが、その後30年近く日本のサッカーは世界の主要大会に出場すらできないといったように低迷しました。一方で、1985年にいま一歩のところでメキシコワールドカップ出場を逃したとき、1987年に引き分ければソウルオリンピック出場というチャンスを逸したり、ドーハの悲劇だったりと、「負けた」ことによって、いずれも(惜しい)敗戦を契機にその後の大きな発展がありました。それは、Jリーグの創設と隆盛、そしてオリンピックは1996年から、ワールドカップは1998年から毎回出場するなどの発展です。

 節目の大きな試合で、結果的には負けたけれど、そこにも貴重な、それまでに積み重ねたプロセスがあったのです。全力を尽くしたうえでの敗戦は、勝負事ですから、どうしても避けられないものです。しかし、その試合の反省を活かし、その都度成長を遂げていくことができるわけです。今回の敗戦も、必ずや次の発展につながっていくものと私は信じています。サッカー界には「負けてまたサッカーを覚える」という格言があります。この言葉を強く感じた、今回のオリンピックでした。

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