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No.16 学ぶ喜び
2023/7/12

【校長からの発信】
No.16 学ぶ喜び


2023年7月12日 校長 森田 勉

 

 そろそろ関東地方も梅雨明けの声が聞こえてきそうになってきました。生徒のみなさんは、先週までの期末試験を終えて、いよいよ1学期の総仕上げのときを迎えています。期末試験の結果も踏まえて、今学期をしっかりと振り返っておきましょう。

 今日のテーマは「学ぶ喜び」としました。生徒のみなさんにとっては、定期試験などをイメージすると、喜びより苦しみの方が沸いてくるかもしれません(苦笑)。しかし、私のように高校を卒業して何十年も経過すると、高校時代に試験を受けたり、そのための準備勉強で問題を解いたりしたことは「幸せ」なことだったなと思うのです。人生100年時代と言われています。これからの時代は生涯学び続けていかなくては豊かな自分の人生を築いていけません。今、みなさんが経験していることは、その礎を築くことなのです。そういうことにもぜひ想像力を働かせてほしいと願っています。

 ところで、先週の金曜日、全国私立工業高等学校長会の総会・研究協議会が市ヶ谷の私学会館にて開かれました。その際、「資質・能力を基盤とした学力論とこれからの高校教育」というテーマで講演会も行われました。講師は、中教審の委員でもあります上智大学の奈須正裕教授でした。本校からは、11人の教職員が参加して熱心に聴講していました。その講演概要を以下に紹介しておきます。

 講演は、
1 改めて学力とは? 資質・能力とは?  
2 「見方・考え方」を鍛える教科の授業づくり 
3 総合的な探究の時間の充実  
4 令和の日本型学校教育 
 の4つの内容から成っていました。

 印象に残った部分を箇条書きで載せておきます。

  • 学力論の2つの系譜
     知識の量が学力だという考え方が一般的であった。知識は持っているためでなく使うためにある。これまでの反省としては、リアリティがないまま来てしまった。入試には使うが。そもそも何だったのか。「使うため」に教えたことが使えないと意味がない。
  • コンピテンシー=有能さ
     知っているだけではなく、うまくできなくてはいけない。どれだけ問題解決ができるか。それを学力として見よう。大学入試のあり方が変わってきたことが大きい。見たことがない問題を解くことができることが重要であり、それが学力というもの。
  • 資質・能力(コンピテンシー)への注目
     学校で成績がよかった人は成功しているのか。うまくいかなくても人生は真っ暗ではない。意欲、感情を調整できる、対人関係を解決できる力を身につけることが大事。人生は問題解決の連続。非認知能力は大切な学力と言える。「考えるとはどういうことか」をもっと教えなくてはいけない。活用が利く知識が必要。整理統合されている知識。
  • なぜ今、コンピテンシーなの?
     変化のスピードが速くなってきた。「このことを知っているよ」はもはやアドバンテージではない。すぐに調べられるほどにICTが発達。調べるための訳・理由がわかっている知識があればよい。
     人間が何をすべきか、ということがはっきりしてきた時代。教育の「人間化」をする時代到来、チャンスが来た。
  • 「網羅」から「看破」へ
     新知識と既存知識が結びつくことが大事。網羅から看破へ。全部知っているわけではないが見通せる。この問題はここを抑えればうまくいく。複数のコンテンツが整理できるように指導する。
  • 生活の教育と科学(教科)の教育
     科学の生活化。これまでは教科と生活実感が離れてきていた。暮らしとしっかり繋がっている。生活の知恵を科学的に吟味する。生活の科学化も重要。
  • 生活を自覚・吟味し、創造する教育
     暮らしを創ればいい。仲間と一緒に地域に出てやってみようじゃないか。それによってどんなふうに生きていくかを考える。生きることはプロジェクトそのもの。人生を生きていることは探究そのもの。のんべんだらりではダメ。よりよく生きることが、懸命に自分らしく生きることが探究。自分らしくやるためにはちゃんとやる。叱られることは大事。
  • 問い直し。わからなくなる。勉強する。またわからなくなる。教科で勉強したことがリアルになってくる。科学の生活化。
  • 現在の生活の自覚・吟味・更新
     人は誰でも思い違いして生きていることに気づくことが大事。それを正していく、自ら発見していく、間違いがわかること。生き方=知識。身にしみてわかっていること。
  • より汎用性のある学びへ
     世の中に普通や当たり前なんてことはない。
     異なるものをもっと知りたいとなる。⇒持続可能な社会へ
  • 令和の日本型学校教育
     令和答申は指導要領とは別物ではない。
     正解主義を変えたい。同調圧力を変えたい。自分らしく堂々と生きていないのはよくない。自律した学習者へ成長していこう。
  • 「個別最適化された学び」から「個別最適な学び」へ
     子どもは学びの主体。「される」ではいけない。
  • 教える教育から環境を整える教育へ
     子どもが学ぶ環境を整える。学べるようにしてあげればいい。
  • 何を、なぜ、どのように学ぶのかの情報をすべて開示する
     「単元指導案」を子どもに渡す。情報を開示しよう。⇒主体的になる。伝統的な座学の授業ほどやっていない。納得尽くで、相談して進めるとよい。
  • 同期型と非同期型×対面と遠隔
     「電話をかける」ことと同じように、相手のことを意識しないでこちらのペースで進めていくのが同期型授業。簡単に言えば、号令をもとに教室を静かにさせて、一斉にスタートして、全体に同じ内容を教えていくこれまでの伝統的なスタイル。こういう授業では、学習規律が必要になる。学習モラルは大事だが。これだと全員を揃えなくてはいけなかった。しかしこれからは自分のペースで動くことが大事。

 効果も上がるし、生徒は対面非同期型の方が面白さを感じる(=できる、わかるを実感できるから)。幼稚園は現在でも対面非同期型になっている。ICTが一番進んだ授業は対面非同期型。非同期型学習では自分のペースで学習することで、それぞれの生徒の理解度に応じて進めることができ効率よく生徒が習得できる可能性が大きい。ICTの発展により、それを活用すれば、教師は個々の生徒の状況を居ながらにして把握も可。

 参加したみなさんも大いに刺激を受けた様子でした。私も、長い教師経験を積んできましたが、どちらかと言えば「教え込み型」の授業を展開してきた方です。一番大事なことは、生徒のみなさんが大きく成長し学ぶ力を身につけてもらうことです。つい数年前まではICTがこれほどまでに利用はできませんでした。こうした時代では一斉型で同期型のコミュニケーションしか方法がなかったのですが、これからは発想を変えて非同期型も取り入れていく必要性を強く感じました。本当に勉強になりました。

 このように新しい知見を獲得できるのが学ぶ喜びの一つの醍醐味です。今回は講演から学びました。生徒のみなさんは、時間もたくさんあります。もうすぐ夏休みに入りますからなおさらです。仲間から、読書から、旅から、そして出会いから様々な形で学ぶ喜びを体験してほしいと願っています。

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