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No.22「人工知能(AI)にできない能力を育てよう」
2020/6/1

【校長からの発信】
No.22「人工知能(AI)にできない能力を育てよう!」


2020年6月1日 校長 浅井 千英

 

高等学校での教育は変革期を迎えています。従来はどちらかと言うと教科ごとに切り離されたものが主流であったものが今後は、アクティブ・ラーニング、プロジェクト学習(PBL)、開発教育、体験学習、問題提起型学習、社会参加型学習(インターン)、美術、音楽、体育、家庭科、総合的な学習(学際的、超領域的・新領域的学習)などが重視されます。

教育という言葉は一方通行的なイメージがあるのであえて学習という言葉に代えます。なぜなら自らが意欲を持って取りにいかない限り何も得ることはできないからです。学習は双方向的なものであり、現代における最大の問題は学習意欲の低下であると言われています。 学習意欲の低下は深刻な問題で、学校での学習に自分の将来との関係で意義を見いだせないことが問題となっています。また、考えさせられる経験、言い換えれば、考えが触発される経験をしていないと言われています。

知能(あるいは心)とは人間固有の能力であり、 それは、過去の能力に新しい能力が付け加わる形で進化してきました。 高度の知能も、本能や反射、情動(自己保存、生殖)といった生物の基本能力の上に構築されています。

AIには、生物としての基礎部分がなく、本能も感情も欲望もない。生きようとする「意志」のない存在には、成長も発展も進歩もない。人間の欲望の駆動力は対人関係にあります。これを取り結べないAIには欲望はありません。人間はフレームもルールもない曖昧で非定型的な状況でも判断し、行動することができます。

コンピュータ化が難しいのは、複雑なコミュニケーションを必要とする仕事や、 柔軟で臨機応変の対応が求められる職種、創造的な知的活動が求められる役割です。

しかし、AIは人間にとって非常に強力なツールとなります。このような時代ではA Iにできないことが人間にとって重要な役割となることです。また基礎学力として重要なことは言語、技能や知識そのものだけでなく、それを運用する能力、すなわち、対話(コミュニケーション)と思考がより重要です。

思考するとは単独の知的能力ではなく、複雑で総合的な探求力のことであり、 課題に直面してさまざまなことを試み、必要とされる資料をたくさん集め、調査を行ない、課題を組み直し、他者に助言を求め、何かのヒントを求めてさまよい、 粘り強く課題に取り組むことです。 思考は問いから生じます。

「問い」は、日常生活がスムーズに習慣どおりに運んでいるときには生まれません。何かがうまくいかないとき、異質なものに出会ったとき、分裂や衝突を感じたとき、何かに驚き、戸惑ったときに生じます。

対話における他者は、自分とは異なる考えを語り、それまでの自分の「当たり 前」や常識に揺さぶりをかけてくれます。 思考は自力で生み出されるのではなく、異なった考え方や新しい異質な経験に触れることによって自ずと生じます。

真の問いとは、自分を変えるきっかけを与えてくれる問いのことです。

コミュニケーションは一方向的な行為ではありません。 話すと聞くは相補的であり、話すだけではなく傾聴する態度とスキル、問いを出す態度とスキルが重要です。

対話力とは、意見や世界観が大きく異なる、あるいは対立する相手を他者として承認し、合理的な議論を行うことができ、互いに批判的な検討を加えながら思考を深め、創造的な解決に向けて努力できる能力、あるいはそうした議論の場をコーディネートできる能力です。

対話は探求力(=思考力)を引き出します。ひとつのテーマを粘り強く、集団で探求する能力、話して傾聴し、テーマを掘り下げて、合理的な議論を展開する能力と自己変革力(他者との対話を通して、それまでの自己の考えを改め、自分のあり方を創造的に変えていく能力)などを育てます。

当然視されて問い直されないでいる前提を問い直す、つまり、自分や自分の集団の暗黙の前提を検討し直すことを批判的思考、反省的思考といいます。

ところで、最近、経済界では、新人の定期採用や、終身雇用の問題点についての発言が目立っています。経団連会長や大手自動車会社の社長など経済界のトップが雇用の入り口と出口の問題に言及しています。将来的にはジョブ・ベース、プロジェクト・ベースの雇用が増えて、年功型賃金は崩壊していくものと思われます。

人間にとって、生き甲斐(社会人としての役割を前向きに楽しく果たしていくこと)は重要です。人間の心奥深くには基本的な三つのニーズがあります。それらは①繋がりたい、②みとめられたい、③貢献したい、です。最近、一部の若者は繋がりが切れた時の辛さを恐れるあまり、最初から繋がることを拒否する場合もあるようですが、みんな勇気を持ってこれらのニーズを満たすよう失敗にもめげずに努力を続けて欲しいと思います。社会人としての生きがいある役割を考える場合、自分の好きなこと、得意とすることに打ち込むことができればと思います。仮に現時点で不得意であっても好きなことであれば、続けることにより不得意でなくなることが期待できます。反対に得意なことであっても好きでないことは避けるべきであると思います。大人になっての好き・嫌いは改めるのが難しいケースが多いこと、嫌いなことをやるのは消耗が激しく、しんどくて、負のスパイラルに陥りやすいと思います 。

 

 

 

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