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No.19 学ぶ喜び
2021/11/29

【校長からの発信】
No.19  学ぶ喜び


2021年11月28日 校長 森田 勉

 

 教員免許更新制が2022年度中に廃止になる見通しである、というニュースが入ってきました。教員免許更新制とは、学校の教員になるために必要な教員免許状を10年ごとに更新しなければならないとする制度で、2009年4月から実施されています。該当する教員は単位取得可能な大学等の講義(合計30時間)を受けて、更新認定を受けなくてはいけない制度です。1955年(昭和30年)4月2日以降に生まれた教員は、この制度の対象になっています。私は、ちょうど昭和30年の6月生まれですので、この制度が適用される最高齢の教員というわけです(苦笑)。

この制度の目的は、当初は不適格教員の排除のためということで導入が検討されましたが、実際のスタート時点での目的は、教員の能力向上(最新の知識や技能の獲得など)ということになりました。30時間以上の受講・修了を2年間という期間内に受けることになっていますが、私の記憶が正しければ、発足当初は教職関連科目18時間以上と専門科目12時間以上でした。現在は(平成28年度以降は)、必修領域講習6時間以上、選択必修領域講習6時間以上、選択領域講習18時間以上の合計30時間以上となっています。

私も受講・修了対象者となりましたので、受講可能な大学を探して受講することにしました。制度導入の経過からして、最初は乗り気ではありませんでした。しかし、受講可能な大学や科目を探していると、当時としては珍しかったオンデマンド形式による授業であったり、足を踏み入れたことがない大学や施設に行けることであったりと、自分の好奇心をくすぐる内容があったので、逆に「良い機会を与えられた」とポジティブに捉え直すことができました。教職関連科目では、早稲田大学が初めて開校したオンデマンド形式の講座を受講できました。修了試験だけはキャンパスにて実施があり、かなり勉強したことを覚えています。専門科目の受講では、私は理科ですので、次の二つを選択しました。ひとつは、2008年4月に東京女子医科大学と早稲田大学による医理工融合研究教育拠点として創設された「東京女子医科大学・早稲田大学 連携先端生命医科学研究教育施設」での実験科目で、もうひとつは、(これも男性の私では後にも先にも絶対に入ることができない)お茶の水女子大学内で行われた生物実験科目でした。両者ともに細かい内容は忘れてしまいましたが、いろいろな学校の先生方と苦労しながら実験できたことが楽しく思い出されます。よい交流もできましたし、本当によい経験になりました。

さて、この制度が廃止になる理由として、多忙な現場の事情を考慮せず、教員に重い負担を強いている現状があります。これはとても残念なことです。やはり、教員の働き方改革は喫緊の課題です。本校でも、自分の余暇を楽しむ時間を惜しんで仕事に専念している先生方がたくさんいます。先生方にも、「自分と向き合う力」「自分の教養を高めるための時間」等を作る施策を実行することが私の責務でもあります。

それはさておき、私がこの制度の一番の問題と考えている点は、「自分から進んで、自分を高めるために、研鑽するためのもの」ではなく“やらされ感”があるということだと考えています。私も最初は先にも触れたとおり、いまひとつ乗り気ではなかった理由はそこにあります。しかし、私の場合には違う好奇心がもたげたので、幸いにも前向きに転じることができました。人は、そもそも学ぶ意欲や知識欲を持っています。つまり、それは「学ぶ喜び」とも言えます。極端な言い方をすると、この制度は、自ら学ぶ喜びを奪う制度であるということです。生徒の自発的学習意欲を大切にする教育の担い手である先生方が、「やらされている」制度の中では、まじめに受講・修了できたとしても、あまり実りがないのではないかと思うのです。

広中平祐という有名な数学者がいます。この人は数学界のノーベル賞といわれる、フィールズ賞を受賞した人物としても知られています。この数学者が次のように言っています。

「生きることは学ぶことであり、学ぶことには喜びがある。生きることは、また何かを創造していくことであり、その創造には、学びの段階では味わえない、大きな喜びがある」

「何のために学ぶのか。僕の答は単純明快に、生きることに喜びを発見するためである」

「創造の喜びは、自分のなかに眠っていた、まったく気づかなかった才能や資質(凄い能力)を掘り当てる喜び、つまり、新たな自分を発見し、自分という人間をより深く理解する喜びである」ということです。この大数学者が言う、新たな自己発見の喜びが「学ぶ喜び」の真髄だと思います。この喜びは、やはり、自発的な学びがあり、その自発的な学びの土台があるからこそ創造につながるものだと思います。創造は自ら進んでいく姿勢がないと生まれることはないからです。

 生徒のみなさんも、自ら学ぶ喜び、ということをたくさん経験してほしいと思っています。この感性豊かな高校時代に身につけてほしい、大切な心構えです。どうしたら「やらされ感」を脱することができるか、じっくり考えてみてください。そういえば、今年度の大きな課題は、「人間はなぜ学ばなければならないか」について自分なりの答えを見つけることでした。そのことにも通じるものです。とことん考えてみましょう。

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