No.6 私の願い2022/6/3
【校長からの発信】
No.6 私の願い
2022年6月3日 校長 森田 勉
いきなり堅い話になりますが、生徒のみなさんは教育基本法という法律があることを知っていますか。これは文字通り、教育の原理を定めている法律です。その第一条に「教育の目的」が次のように書かれています。
- 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない。
この条文で注目すべきは、「平和で民主的な国家や形成者」になることが求められているということです。つまり、一人ひとりが自分たちの新しい未来を主体的に切り拓いていく存在になってほしい、と書かれているわけです。これからのグローバル社会において、そこに適応していくことにとどまらず、明るい未来を創造していくことがみなさんに求められているということです。したがって、みなさんは、自らの生き方を充実させるとともに、日本社会の将来に対し、人々の幸福度を高めるために貢献する人材として、自分自身が考えている以上に、大きな期待を寄せられている存在ということになります。
みなさんは、こうした大きな期待に怯(ひる)んではいけません。逆に勇気を出して、それを「生き甲斐(がい)」と「大きな喜び」として前向きに受けとめましょう。その実現のために、この高校生活の中でみなさんに獲得してもらいたい能力を3つほどあげておきましょう。それは、1つ目に「基礎知識」、2つ目に「考える力」、そして最後に「伝える力」の3つです。
第一にあげたものは十分な「基礎知識」の習得です。極論すれば、みなさんの本分はこれに尽きると言っても過言ではありません。生きることは学ぶことです。ロシアの小説家で有名なトルストイは「学問のある人とは本を読んで多くのことを知っている人である。教養のある人とはその時代に最も広がっている知識やマナーをすっかり心得ている人である。そして、有徳の人とは自分の人生の意義を理解している人である」と言っています。この言葉は、「学問の習得、すなわち十分な基礎知識の習得が、生きる喜びを知ることにつながるものである」ということを意味しています。
2つ目にあげたことは「考える力」です。いまの世の中を見ると、ウクライナ情勢をはじめとして、たびたび起きる不祥事のニュースに暗澹たる気持ちになります。しかし、忘れてはいけません。AIを活用しての最適な抗がん剤治療の開発や、暴走を察知してブレーキを施す自動運転の目覚ましい発展など、人類の未来を救うと思われるような発見や発明をする、優れた人物もあふれるほどたくさんいるのです。そういった優れた人物に共通する点は、いま述べた「考える力」に秀でていることです。卑近な例になりますが、スマートフォンは使えても、どうして、あるいはどのようにして、スマートフォンができるのかを考える人はほとんどいません。それほど現代人は考えなくなってしまっていると言われています。
みなさんの未来には、「地球環境問題」や「食糧問題」、そして「温暖化問題」など避けて通れない問題も多々あることも事実です。しかし、そうした課題に対して、内閣府の世論調査を見ると、科学技術に対する期待度は高いものがあります。その科学技術の基本も「考える力」です。みなさんもこの「考える力」を徹底して磨くことにより、自分の、そしてすべての人のための豊かな未来を切り拓いていってほしいと願っています。
最後は、「伝える力」です。換言すれば、それは「コミュニケーション能力」と言ってもいいでしょう。自分が獲得した知識、追究し発見した真理や真実、そして発展に貢献できると確信できたアイデアや企画等々、すべて、他に正確に伝えることができなければ始まらないことは明らかです。他者が抱く固定観念や誤った先入観は意外に手強(てごわ)いものです。これらを打破し、逆に根拠を示して説明し、共感・共有してもらうためには、小手先のテクニックに頼らず、誠実に、しかも信念と情熱を持って、素直に正しく明確に伝えたい中身を伝えることができる能力が求められます。したがって、高校時代という「若さ」の特権を活用し自分の考えを積極的に外へ発信していく勇気も必要です。そして、大いにチャレンジし失敗を繰り返すことも大切です。「七転び八起き」あるいは「失敗は成功のもと」とも言うではありませんか。志を大きく持って経験を積んでいけば、必ずや、自分の能力を解き放つための手段、いや武器であるとも言える、この「伝える力」が身につくと信じています。
3つの「基礎知識」「考える力」「伝える力」という課題への取り組みを、この『校長発信』を読んだいまこの瞬間から始めてほしいと思います。これら3つの能力を獲得するためにも、すべての基礎となる「読書をする習慣」も身につけましょう。
最後に、明治大学の斉藤孝先生の著書*『子供に伝えたい<三つの力>』(NHKブックス)から、「読書」の大切さについて触れている個所を以下に掲載しておきましょう。
○ 読書が自分の存在を豊かにしてくれるものであることにみなが気づくようになる。本を読む習慣を身につけることによって、出会うことのできる世界は格段に広がる。
○ 本を読む読まないは自由ではない。サッカー選手が走るトレーニングをするように、相撲取りが四股を踏むように、読書は知的活動の土台を作るものだから、本を読む習慣をつけることはどうしても必要なんだ。
○ 読書は、単純な情報摂取以上の意義を持っている。それは、他者の思考に長時間寄り添う訓練をするということである。
○ 深いコミュニケーションや自分とは異なる文化を持つものとのコミュニケーションにおいては、読書が大きなトレーニング効果を発揮する。
これからの高校生活がみなさんの生涯の宝と言えるような、自分に秘められた資質や才能を発見できる貴重な期間になることを心から願っています。頑張ってください。
斎藤先生はこの著書の中で、「コメント力」、「要約力」、そして「まねる盗む力」の<三つの力>を身につけることが生きる力につながることを説いています。